コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】改正民法の施行日をまたいで賃貸借契約が更新となっている場合、保証契約には、改正民法が適用されることになるのでしょうか。
私は所有するアパートの1室について、平成15年頃、契約期間を2年間として普通借家契約を結んでいましたが、先日、賃借人が退去しました。
私とこの元賃借人は、更新手続きを取っておらず、法定更新の状態になっておりました。
この元賃借人の貸室の使用状況はかなりひどく、膨大な原状回復費用がかかってしまいました。
私は、元賃借人に対して、原状回復費用を請求しようとしましたが、一切連絡がつきません。
そこで、私は、連帯保証人に対して原状回復費用を請求しました。
すると、連帯保証人は、原契約において保証契約に関して極度額の定めをしていないため、極度額の設定を義務付ける改正民法の施行により保証契約は無効となっている等と主張し、連帯保証人が原状回復費用を負担する義務はないとの一点張りでした。
私は、連帯保証人に対し、原状回復費用を請求することができないのでしょうか。
改正民法の施行日をまたいで賃貸借契約が更新となっている場合、賃貸借契約および保証契約には、改正民法と旧民法のどちらが適用されることになるのでしょうか。
【回答】合意更新であるか法定更新であるかを問わず、保証契約に関しては、旧民法が適用されます。
本件のように、改正民法施行日前に締結された賃貸借契約が法定更新となっている場合、当該契約に付随する保証契約については旧民法が適用されます。
保証契約に関して、改正民法は適用されないため、原賃貸借契約書において極度額の定めが置かれていなくても、保証契約自体が無効となることはありません(※1)。
よって、ご相談者は、連帯保証人に対し、原状回復費用を請求することができます。
改正民法の施行日をまたいで賃貸借契約が更新となっている場合、賃貸借契約および保証契約には、改正民法と旧民法のいずれが適用されるかについては、【解説】の第2項、第3項においてご説明いたします。
※1 改正民法が適用される場合、個人が保証人となる場合において、極度額の定めがないときには、保証契約自体が無効となってしまいます。【解説】第1項(1)をご参照ください。
関連記事:「連帯保証人が死亡した場合、保証人の相続人に対して請求はできる?」
賃貸借契約においては、通常、担保として敷金を差し入れますが、敷金だけでは未払賃料やその他の損害をカバーできないことがあります。
そこで、人的保証として連帯保証人をつけることが多くあります。
連帯保証人は、主債務者である賃借人とともに、賃貸借契約から生じる債務を負担することになります(改正民法446条)。
保証契約に関して、民法改正により、以下の点が変更となりました。
賃貸借契約において個人が保証人となる場合、極度額(保証人が保証債務を負担する限度)を設定しなければならなくなりました(改正民法465条の2)。
極度額は、「極度額○○円」、「賃料の○か月分」などという形式で規定することが考えられます。
個人が保証人となる場合において、極度額の定めがないときには、保証契約自体が無効となってしまいますので、ご留意ください。
ア 契約締結時の保証人に対する情報提供義務(個人が保証人となる場合)
事業のために負担する債務について個人が保証する場合には、契約締結時に、債務者(賃借人)が保証人に対して、以下の情報を提供することが義務付けられました(改正民法465条の10)。
主たる債務者が誤った情報提供をした等のために保証人が事実を誤認して保証契約を締結した場合において、債権者(賃借人)が情報提供義務違反を認識していた等のときには、保証人は保証契約を取り消すことができます。
①主たる債務者の財産および収支の状況。
②主たる債務以外に負担している債務の有無ならびにその額および履行状況。
③主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨およびその内容。
イ 契約期間中の情報提供義務
賃貸借契約期間中に保証人から請求があったときは、賃貸人は保証人に対して、賃借人の債務の履行状況に関する情報(賃借人の債務不履行の有無、賃料未払等がある場合にはその金額(未払額、遅延損害金)等の情報)を提供しなければなりません(改正民法258条の2)。
ウ 期限の利益喪失に関する情報提供義務(個人が保証人となる場合)
主たる債務者である賃借人が期限の利益を喪失した場合は、賃貸人がそれを認識したときから2か月以内に保証人に対して通知する義務があります(改正民法458条の3)。
これを怠った場合には、債権者は保証人に対して期限の利益喪失時から通知時までの遅延損害金を請求することができないことになります。
新旧民法の適用関係について、改正法附則34条1項において、「施行日前に贈与、売買、消費貸借、・・・使用貸借、賃貸借、・・・の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例による。」とされています。
つまり、改正民法施行日である令和2年4月1日より前に締結された賃貸借契約については旧民法が適用され、同日以後に締結された賃貸借契約については改正民法が適用されます。
それでは、施行日前に締結された契約の更新が施行日以後にされたときには、新法と旧法のいずれが適用されるのでしょうか。
まず、当事者の合意に基づく合意更新の場合、契約の更新の合意の時点で、更新後の契約について新法が適用されることへの期待があるといえるので、施行日前の契約締結時点において当事者が有していた旧法適用への期待を保護する必要が失われていると解されます。
そこで、当事者の合意によって更新される場合には、更新後の契約には、新法が適用されることになると解されています。
法定更新(借地借家法26条)の場合はどうでしょうか。
その場合は、当事者の意思に基づかないものであるから、契約更新の時点で当事者に新法が適用されることについての期待があるとも言い難く、更新後も旧法が適用されると考えられています。
新旧民法の適用関係について、改正法附則21条1項において、「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。」とされています。
つまり、保証契約の締結時を基準として、その前後で新旧民法の適用関係が分かれます。
それでは、施行日前に締結された賃貸借契約の更新が施行日以後にされたときには、当該契約に付随する保証契約には、新法と旧法のいずれが適用されるのでしょうか。
仮に、賃貸借契約の合意更新に伴って、新民法施行後に新たな保証契約が締結されたとみるのであれば、新民法が適用されることになり、上述のように、情報提供義務や個人根保証における極度額設定義務などへの対応が必要となってしまいます。
この点に関しては、一般に、賃貸借に付随して締結される保証契約は、賃貸借契約が合意更新された場合の更新後の賃借人の債務も含めて保証する趣旨であると解されています(最判平成9年11月13日)。
そして、賃貸借契約の合意更新時に新たに保証契約が締結されるものではないことから、合意更新の場合の保証には旧民法が適用されると解されています(※)。
※筒井健夫ら編著「一問一答民法(債権関係)改正」商事法務
法定更新の場合も、法定更新時に新たに保証契約が締結されるものではないことは、合意更新の場合と同様であることから、法定更新の場合の保証にも旧民法が適用されると解されています。
本件のように、改正民法施行日前に締結された賃貸借契約が法定更新となっている場合、当該契約に付随する保証契約については旧民法が適用されます
新民法は適用されないため、原賃貸借契約書において極度額の定めが置かれていなくても、保証契約自体が無効となることはありません。
ご相談者は、連帯保証人に対し、原状回復費用を請求することができます。
もし賃貸借契約に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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